一ノ瀬ポトフの生活

趣味で書いたエッセイ的小話を順次アップしていきます

いわくつきの絵、親不孝

私が10代の学生だった頃、ある夏の課題は鉛筆画だった。「野菜の断面図を使って自由に描きなさい」。
私は、どんな絵にするか思いつかず困り果てていた。

 

 

深夜、濁った目でモチーフを見つめていると、段々人の顔のように見えてきた。疲れが見せる幻に過ぎないが、藁をもすがる思いである。これを取っかかりにしようと決めた。

夜中という時間帯も手伝って、私は、頭の中でモチーフを擬人化。昼ドラ的な世界を思い浮かべた。

 

絵は、ゲテモノ系なものが出来上がった。
「もっとモネとか…ああいう綺麗なものを描きなさい」
父も妹も気にしなかったが、母だけが許さず、激怒した。 

私は必死に「いや、これはこういう作品だから」と言い訳をした。自分の中では良く出来た産物を、ボツにしたくはなかった。 
「そんな絵やめなさい!」
「絶対嫌だ!」
母は食い下がらず、私も引かなかった。講評に出すのは絶対にこの絵が良かった。

 

全部が全部そうなるわけではないし、個人的な主観でもあるが、「これはアートです」と言ってしまえば、多少の事がまかり通ってしまうのは、美術分野のズルいところであると思う。

 

実際は、思春期の子の、やや倒錯的な妄想を描き殴ったもので、そしてそれを親が目撃し、多少ショックを受けたとしても、「アート」と言えばまかり通るのである。(※そんなことはない)

 

絵としてはすごく良いと思ったし、怖い絵画も昔からあるので、これもそういったジャンルの絵として、納得出来る範疇だという自信もあった。そのため、私はすぐには悪びれなかった。

でも、時間が経つと、少し申し訳なくなり、一度描き直しかけたが、やはり筆が乗らず断念した。

 

講評での評価は良かった。おどろおどろしい所を褒められる。この絵のために親と喧嘩しました、と言ったら笑われた。


大人になった今思うと、多感な時期に、少しアウトローな物、危険な香りに惹かれてしまうのはままあることだ、許せ親よ…と言いたいところだが、多少は忍んだり、気を遣っても良かったのかなと感じる。

しかし、これから我が子を美術系の学校に進ませるといった場合、必ずしも、綺麗な絵柄、作風になるわけではない事を、親御さんは覚悟しておいて欲しい。