一ノ瀬ポトフの生活

趣味で書いたエッセイ的小話を順次アップしていきます

初めての修行(後編)

前編はこちら↓

 

potofu-life.hatenablog.com

前回のあらすじ

日帰り滝行にやってきたものの、全く修行についていけず、心のゆとりを失ってきた私。

ついに他者への寛容さまで失くし、観光気分の他の参加者に内心勝手な苛立ちを覚え始めたのであった。

 

初めての修行(後編)

再度言うが、私は今日が初めてのド素人だ。日帰りで、これからこの寺で働くでもない。

さらに修行は全然出来ておらず、ついでに遅刻もしている身なのに、一体何様なのだろう…怒りながら自分に呆れていた。雑念いっぱいである。

 

その後も滝に向かう車で「この後メシどうする〜?」的な話をしている参加者、滝行中の写真を笑いながら撮り合う人たちを見て「チッ」と思うなど心の中はどんどんダーティに。

 

正直、滝行に誘える友人が居ない、という嫉妬もしっかり含まれていた。

ずっと忙しくて他の参加者と話すどころではなかったし、修行は難しい。

内心、かなり心細かったのだ。

 

大体メンタルはそんな感じだったが、山道〜滝〜下山までは落ち着いていた。

というのも、滝行はいけるところまで車で移動して、そこから先の山道は歩いて移動する必要があった。

 

山での足元は雨上がりで滑りやすい岩場。

そこに、「慣れた人でも転んで頭打つし、場合によっちゃ顔切れますよ」との担当者からの脅し(注意)もあり、命の危険を感じたため、「安全第一」以外のことが脳から消えた。

 

あと滝行中。

水は身体を潰す勢いだったし、思いのほか冷たくて全身がこわばった。

コンタクトがズレて視界は曖昧。自分がどこにいるか分からなくなるようで、パニックで呼吸も乱れかける。

 

どの修行も必死だった。けれど、怪我しそうな山道や、滝行で身体的に追い込まれる事によって、これまで抱えていた「上手くやろう」が爆散。

最早「最後までやり遂げる」以外考えられなくなっていた。

 

また、滝行中は打たれてる人に声援を送っていいことになっており、応援したりされたりしていたらその場の一体感で少し憎しみが和らいだ。

 

その後、皆下山し、寺に帰る車中でも他者のゆるい雑談に苛つき(またか)…最後に集まって、感想の時間に。

そこでちょっと、我に返った。

 

(真剣にやったが全然ついていけず難しい。

担当者のいう通り力を抜き、純粋にイベントとして楽しむことも出来なかった。

遅刻、迷子、あろうことか他の体験修行の方に嫉妬や的外れな憎しみすら抱いた…

こんな私に一体何が言えるっていうんだろう…)

 

私がトップバッターなのに口ごもり、なかなか話そうとしないので担当者がせっついた。

「感想は」

「慣れなくて難しいところもありましたが、無事に終わってよかったです。」

「朝からの様子を見て、あなたのことは心配してたんですよ。」

 

…こんな生徒でホントすいません。邪心が読まれたようで、恥ずかしくもあった。

 

他の方の感想は…「スッキリした」「自分の悩みがちっぽけなものに思えた」等が続く。

その度に、それが本当かどうかわからないし、自分のせいなのに

 

(いいなあ。私ももっと純粋な気持ちで修行してスッキリしたかった…!)

 

また他者を羨んでしまう。我が器の小ささよ。

 

「辛かったけど、友達の応援が嬉しかった!」と言う人もいた。

「そういう方は結構います、一人参加は度胸も要りますからね。」

 

担当者の言葉に、ハッとした。

その日、私は複数人参加を見てはどこか眩しく思い、苦い気持ちになっていた。だけど、そんな一日でも意味があったんじゃないかと初めて思えた。

 

そして心はみるみるうちに増長し、「フフン」的な気分になり、また後悔した。ヨゴレと反省のエンドレスリピートである。

 

これは一日じゃ足りないと言われるわけだ。

 

余談

時間の都合で滝行後のシャワーを諦めたら髪が濡れたままだったので、予備のタオルを頭に雑に巻き、帰った。

 

すると帰宅後「ラーメンの湯切り」と家族に揶揄われ、それで電車に乗ったのかと問い詰められた(乗った)。

さらに、今日一日のことをありのままに話すと、

「お前、清らかな心になるどころか寧ろ汚れてきてるじゃねえか」

…ぐうの音も出なかった。